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福岡高等裁判所 平成8年(ネ)415号 判決 1997年8月27日

福岡市中央区白金二丁目七番七号

控訴人(附帯被控訴人)

宮城英一

福岡市博多区博多駅前三丁目二番一号

被控訴人(附帯控訴人)

株式会社はせがわ

右代表者代表取締役

長谷川裕一

右訴訟代理人弁護士

角銅立身

主文

本件控訴及び附帯控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は被控訴人の、各負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人は、朝日新聞及び読売新聞の各全国版に一回宛別紙広告目録記載の案文により、標題にはゴシック四号活字を、当事者双方の住所氏名には四号活字を、その他の文字に五号活字を使用し、二段抜きにて印刷した謝罪広告を掲載せよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  附帯控訴

被控訴人は、「原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。控訴人は、被控訴人に対し、金四二三三万五六三六円及びこれに対する平成五年六月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴人は、「本件附帯控訴を棄却する。附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二  主張

(本訴)

一  請求原因

1 控訴人は、原判決添付特許等目録一ないし四記載のとおり、骨壺収納器等に関する特許権を有し、又は、特許出願をしていた(以下、これらを併せて「本件発明」という。)。

2 ところが、被控訴人は、左記のとおり、新聞社及びテレビの取材において、本件発明に係る商品を自ら開発したと宣伝発表し、控訴人の営業上の信用を侵害した。

ア 平成五年二月七日付け大分合同新聞

イ 同月八日付け北日本新聞

ウ 同月九日付け新潟日報

エ 同月一二日付け南日本新聞

オ 同月一四日付け徳島新聞

カ 同年三月一四日付け東京新聞

キ 同月二五日放送の日本テレビ「ジパング朝6」

3 すなわち、被控訴人は国内大手の仏壇店であることから、全国各地に右宣伝が流布された結果、控訴人が本件発明に係る商品について営業活動をしても、いずれの取引先も、被控訴人が本件発明に係る権利者であって、控訴人はこれを侵害しているものと考え、控訴人の営業活動は困難となっている。

4 よって、控訴人は、被控訴人に対し、不正競争防止法二条一項一一号、特許法一八八条、民法七〇九条に基づき、謝罪広告の掲載を求める。

二  請求原因に対する認否及び被控訴人の主張

1 請求原因1は認める。同2、3は否認する。

2 控訴人主張の宣伝発表は、平成五年二月上旬、共同通信の記者が取材して各新聞社に配信し、同年三月二二日、日本テレビのディレクターが取材して放映したところ、いずれも、控訴人において、被控訴人が開発したものとして情報提供したものである。

(反訴)

一  請求原因

1 被控訴人は、控訴人及び株式会社源(以下「訴外会社」という。)の代表者井上幸洋の申し出により、平成五年三月二四日、訴外会社との間で、窒素ガス充填装置付骨壺二〇〇基を、概ね、左記約定で買い受ける旨の契約を締結した。

ア 売買代金は四一一〇万二五六〇円とする。

イ 売買代金の支払時期は平成五年三月二四日とする。

ウ 骨壺は契約日の翌日から起算して二か月以内に納品する。

2 そこで、被控訴人は、訴外会社に対し、額面合計四二三三万五六三六円(消費税を含む。)の数通の約束手形を振出交付し、訴外会社はその支払いを受けた。

3 ところが、訴外会社の目的は宅地建物取引業等であって、右の骨壺販売は目的の範囲外であった。これに加え、訴外会社は、約定の平成五年五月二五日までに、窒素ガス充填装置付骨壺を二一基しか納品できなかった。

4 控訴人は、右のとおり、訴外会社には右骨壷の製造能力も販売能力もないのに、これがあるかのように被控訴人を欺罔し、売買代金名下に前記2の金員を騙取した。

5 よって、被控訴人は、控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償として、四二三三万五六三六円及びこれに対する不法行為の後である平成五年六月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1は認める。同2ないし4は否認する。

第三  証拠

原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本訴について

1  証拠(甲一ないし七、一一ないし一三、一九、二三、原審証人濱田倫、同野見山義信、同秋吉泰良)によれば、控訴人と訴外会社の代表者井上幸洋は、平成四年一二月ころ、被控訴人に対して、本件発明に係る骨壺収納器を被控訴人において販売するよう申し入れ、平成五年二月六日から同月九日まで、被控訴人の主催する全国新作仏壇コンテストの仏壇展示会部門に、右骨壺収納器を展示したこと、その会期中、被控訴人から右コンテストの案内を受けた共同通信の記者後藤充が取材に訪れ、被控訴人の社員と控訴人が取材に応じたこと、右の取材内容は、大分合同新聞、北日本新聞、新潟日報、南日本新聞、徳島新聞及び東京新聞にそれぞれ配信され、右各新聞は、いずれも、「仏壇・仏具製造販売のはせがわ(本社福岡市)が、お墓の代わりに遺骨を安置できる新型の仏壇を開発した。」「この骨壺収納器の考案で特許を取った福岡市の発明家宮城英一さん」と報じたこと、日本テレビのディレクター濱田倫は、同年三月ころ、新聞記事で右骨壷収納器を知り、被控訴人に取材を申し入れ、被控訴人の広報担当者から一応の説明を受けた上、右骨壺収納器を展示していた被控訴人の高井戸店に取材に赴いたこと、同店では、被控訴人の社員渕上岩義と、右骨壷収納器の発明者と紹介された控訴人が取材に応じ、渕上岩義のインタビューの状況や右骨壺収納器等が録画されたこと、右の録画は、同月二五日の「ジパング朝6」で放映され、渕上岩義において、「自宅の近くに納骨したいというお客様方のお声に答えるために、今回の骨壺収納器を開発したわけでございます。」とコメントしたこと、以上の事実が認められる。

2  右事実によると、新聞記事やテレビ放送においては、本件発明に係る特許権の所在に触れるものではなく(むしろ、新聞記事においては、控訴人が特許権者であることを明示している。)、単に、被控訴人が、控訴人からの申入れによって販売を予定していた骨壺収納器につき、自らが開発したということを告知したにすぎないのであって、その措辞に不適切な面がなかったとはいえないにしても、右告知によって、控訴人の営業上の信用が毀損されることはないと考えられる。したがって、右の告知は、不正競争、特許権侵害(控訴人は特許法一八八条の適用を主張するが、右規定は虚偽の特許表示を禁止するものであって、本件に関連のないことは明らかであるから、控訴人の主張は特許権の侵害をいうものと解する。)及び不法行為のいずれをも構成しない。また、右の各取材においては、いずれの場合にも、控訴人が立ち会っていたのであるから、被控訴人の従業員としては、控訴人においても右の取材内容を容認していたものと考えるのが自然であって、被控訴人に故意又は過失を認めることもできない(不正競争防止法七条、特許法一〇六条、民法七〇九条参照)。

以上によると、信用回復措置を求める控訴人の本訴請求は理由がない。

二  反訴について

被控訴人と訴外会社とが被控訴人主張の売買契約を締結したことは当事者間に争いがない。

被控訴人は、控訴人が被控訴人を欺罔して右売買代金を騙取したと主張するが、本件全証拠によるも、これを認めるに足りない。

したがって、被控訴人の反訴請求は理由がない。

三  よって、本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 下方元子 裁判官 池谷泉 裁判官 川久保政德)

広告目録

骨壺に関する貴殿の権利にかかる特許第一七九三九八五号、同特許第一八一九〇八七号、特許公告平六-七八四六号、同特許公開平六-一七八七九八号について当社が開発したとして新聞やテレビに発表し、これがために、貴殿の信用を傷つけ、貴殿に多大の御迷惑、損害を掛け誠に申し訳なく、ここに慎んで陳謝の意を表します。

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